自営業者・経営者の財産分与

自営業者の財産分与や経営者の財産分与について、その会社や事業の資産は財産分与の対象になるのでしょうか。

 

1 自営業者の場合

自営業者の方が財産分与を請求された場合,事業用資産についても,原則として,財産分与の対象となります
例えば,事業用の預貯金や,売掛金,備品等がこれにあたります。
ただし,逆に事業用の負債(借金)がある場合,それを差し引いた額が財産分与の対象となります。

夫婦が協力して形成した事業用財産について、財産分与の対象となったものとして、東京高判昭和54・9・25などがあげられます。

《証拠略》によれば、医薬品配置販売業を営むための懸場帳として、現に被控訴人は、原判決別紙物件目録(二)記載1ないし9の配置薬懸場帳九冊(以下「本件懸場帳九冊」という。)合計九〇五戸分を自己の支配下に置いて右販売業を営み、控訴人は、別個に得意先一一〇〇戸ないし一二〇〇戸につき諸要件を記載してある懸場帳を自己の支配下に置いて右販売業を営んでいる事実を認めることができ、《証拠略》によれば、本件懸場帳九冊及び控訴人の占有管理する野場帳はすべて控訴人と被控訴人が協力して取得した財産である事実を認めることができる。

2 法人の場合

法人(会社)の代表者の場合には,法人(会社)と個人とでは別人の扱いなので,法人(会社)の財産は直接には財産分与の対象にはなりません。

しかし、個人と法人(会社)の財産の区別がないような場合には,財産分与の対象となることもあります。

また、夫婦の婚姻期間中に当該会社を夫婦の共有財産から出資して設立した場合には、当該会社の株式が財産分与の対象となります。

実際には、株式を財産分与の対象とする事が多いです。

ここで問題となるのが会社の株式の評価方法です。

⑴ 株式の評価方法

ア 上場会社の場合

上場会社の場合は、株式は別居時に所持していた株式数に現在の株式の時価をかけて評価します。

 株式数×時価評価

イ 非上場株式の場合

非上場株式の場合には、評価方法は一定ではありません。評価方法としては純資産価額方式、類似業種比準方式、これらの併用方式、配当還元方式などがあります。

主に、利用するのは純資産価額方式によると思われます。

会社の決算報告書を提出してもらい、純資産の評価額(純資産額を発行済株式で割った額)にて評価する事があります。

医療法人にかかる出資持分の全てを清算の対象とするわけではなく、医療法人の純資産評価額の7割を評価額とするとして財産分与額を算定した、大阪高平26.3.13があります。

本件医療法人が所有する財産は,婚姻共同財産であった法人化前の本件診療所に係る財産に由来し,これを活用することによってその後増加したものと評価すべきである。そうすると,控訴人名義の出資持分2900口のほか,形式上控訴人の母が保有する出資持分50口及び被控訴人名義の出資持分50口の合計3000口が財産分与の対象財産になるものとしてその評価額を算定し,控訴人が被控訴人名義の出資持分について財産分与を原因として控訴人に対する名義変更を求める旨の附帯処分の申立てをしていないことを考慮して,対象財産の総額に被控訴人の寄与割合を乗じて得た金額から,被控訴人名義の出資持分の評価額を控除する方法によって最終的な財産分与額を算定するのが相当である。(中略)将来出資持分の払戻請求や残余財産分配請求がされるまでに本件医療法人についてどのような事業運営上の変化などが生じるかについて確実な予想をすることが困難な面がある。こうしたことを考慮すれば,本件医療法人の純資産評価額の7割相当額をもって出資持分3000口の評価額とするのが相当

 

株式の評価方法は最終的には、税理士に頼まざるを得ませんが、そもそも、評価額の何割を貰えるか、その他どの財産が幾ら財産分与の対象となるかによって、もらえる財産分与の額は非常に大きく変わります。

財産分与について、安易に妥協してしまうと、後で、合意書をもってきて弁護士に相談に来られて後悔される方がいらっしゃいます。

よく分からないまま合意してしまう前に、是非、離婚と財産分与の取り扱いを多数行っている弁護士にご相談ください。